今月のメンバー 橋本正一

2021年9月9日

2021年9月9日

橋本正一  浄土真宗本願寺派 来恩寺住職

 今から35年ほど前、私が26才からの3年間、ハワイ・カウアイ島にある本願寺派寺院の住職を勤めていた経験があります。

当時、ハワイ州には本願寺派の寺院が36カ寺あり、カウアイ島にも5ヵ寺ありましたが、メンバー(信徒)はほとんどが日系人で、当時は2世・3世が多かったと思います。

住職の仕事は日本と同じように故人のご法事などを執行することと、日本と少し違うのは毎週日曜日にある「日曜礼拝」での法話や、病院付き宗教者として入院患者さんの悩みを聞く仕事でした。

 日系人社会は明治・大正の時代に、多くの若い日本人男性が船でハワイに渡り、契約とは相当違った過酷な労働に耐え、数年後には実家の親の勧めなどでお嫁さんを呼び寄せ、「子どものために」と極貧の生活をしておられた事に始まるそうです。

 そんなハワイでの住職生活で忘れられない出来事が一つあります。それはいつものようにお寺でメンバー故人のご法事を済ませ、墓地でのお参りも頼まれて、海岸沿いの丘の上にある日系人墓地に初めて行った時のことです。

墓前での読経後、墓石がみんな同じ方向、海に向いて建てられていることに気づいた私が、「なんでみんな同じ方向に向いているのですか?」と尋ねますと、二世か三世の方でしたが、海の彼方、墓石が向いている方角を指差して、「Sensei(先生)…。Japan…。」と答えてくれました。

そのお墓は一世の方が亡くなられたときに建てられたものだと思いますが、故郷を思いながら亡くなられた一世(親)の心情を想う子どもたちやお孫さんの、「せめてお墓は故郷日本の方に向けて建ててあげたい」という気持ちが伝わってくる日系人墓地でした。